1.上限の引き上げについて
令和6年の税制改正で、税務上の交際費等の範囲から除外される飲食費の金額基準(1人あたり)が、
改正前:5,000円以下
改正後:10,000円以下
に引き上げられました(租税特別措置法施行令37条の5)。
令和6年4月1日以降に支出した飲食費が対象となります(附則(令和六年三月二七日)第16条)。
簡単にいうと、取引先との会食などで交際費から除外して計上(※)できた金額が、1名あたり5,000円以下だったものが10,000円以下になったということです。
(※実務的には「会議費」の勘定科目で計上することが多いと思います)
交際費から除外して計上するためには金額以外にも要件があります。また、交際費から除外できなくても、一定規模の中小企業等は、一定の金額まで税務上の経費に計上可能です。
参考 国税庁 接待飲食に関するFAQ
※ページ内「交際費等(飲食費に関するQ&A(平成18年5月)」も参照
参考 国税庁 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
2.インボイス制度下での判定
上記の金額の判定ですが、経理方式によっても結果が変わってきます。
税込経理方式⇒税込で10,000円以下
税抜経理方式⇒税抜で10,000円以下
参考 国税庁 交際費等の損金不算入額を算出する場合における消費税等の取扱い
No.6917 交際費等の損金不算入額を算出する場合における消費税等の取扱い|国税庁 (nta.go.jp)
税込の場合は問題ないのですが、税抜の場合で、支払った相手(飲食店)が適格請求書(インボイス)発行事業者に登録していない場合、判定がやや複雑になります。
インボイス発行事業者でない事業者に支払をしても、その支払金額に消費税はないものとして扱われます(消費税経理通達14の2)。よって、原則として、相手がインボイス発行事業者でなければ、支払った総額で判定することになります。
(仮に支払った合計が11,000円なら計上不可、ということになります)。
ただし、令和8年9月30日までは、相手がインボイス発行事業者でなくても、消費税額の80%までは仕入税額控除(消費税を計算する上での控除)が取れるという経過措置があります(令和8年10月1日~令和11年9月30日までは50%となる予定です)。
当面、消費税額の80%は控除できることになりますが、控除できない残り20%は本体価格に含めることになります。
仕訳で考えると、80%分は仮払消費税等に、残り20%は飲食代に含まれるということになります。
この20%の飲食代が含まれた金額が、1人あたり10,000円以下になるかどうか、ということになります。結果としては、(普通の)税抜で9,803円、税込10,784円あたりがボーダーラインとなります(参考:週刊 税務通信3795号)。
仕訳で考えると下記のようになります。(※あくまで上記の論点を考えるための仕訳です。実際の仕訳例ではありません)
飲食代 10,000(≦10,000円) / 現金等10,784
仮払消費税等784(※)
※税抜9,803円×消費税率10%×経過措置分80%
上記は1名分ですが、参加人数によって上限が変わってきます。
3.おわりに
インボイスが絡んでくることもあってやや複雑な問題ではありますが、接待で利用し、かつ1万円前後という金額を考慮すると、お店がインボイス発行事業者である場合が多いと思いますので、実務で悩む局面は少ないかもしれません。
少し脱線した話となりますが、まだまだインボイスの登録番号が書かれていない領収書も業務で多く目にします(特に手書きの領収書に多いです)。
もちろんインボイス発行事業者として登録していない事業者の領収書である場合がほとんどですが、中には登録しているのにインボイスの登録番号が書かれていないケースも稀にあるのではないかと筆者は思っています。
例えば飲食店などで、登録番号の記載をお客さんに要求されなければ書かなくていいという認識の従業員がいたり、本部(代表者)側でインボイス登録をしたけど店舗に番号が伝わっていなかったりするケースです(後者は制度開始の頃、実際に聞いた事例です)。
お客さんは損をしてしまいますし、お店側も接待利用を敬遠される要因となってしまう不幸なケースですので、領収書に印刷やハンコなどで番号を事前に記載するなど、確実な対策が必要です。
インボイス制度の理解を深めて、売り手側も買い手側も不必要な損失を避けるようにしましょう。
※法令・情報は執筆当時のものです。
(文責 札幌事務所 伊藤)
※当社では、顧問契約を締結しているお客様以外の個別の税務相談には対応いたしかねます。何卒ご了承ください。
税理士変更をお考えの方はこちら