1.グループ法人税制の仕組みと適用対象
前述のとおり、グループ法人税制は2010年度の税制改正において創設された税制です。
創設の背景には一体的な運営を行う企業グループが増加しているという昨今の社会的な潮流があります。
グループ法人税制は簡単に説明すると、企業グループを一つの法人のように捉えて課税するという仕組みです。
そして、グループ法人税制の対象となるのは、会社の希望や資本金の額に関わらず完全支配関係のあるグループ法人です。
ここでいう完全支配関係には「当事者間の完全支配の関係」と「当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」の2つがあります。
まず、「当事者間の完全支配の関係」とは、一の者(個人、法人を問わずグループのトップに位置する者)が法人の発行済株式等の全部を「直接」または「間接」に保有する関係のことをいいます。
なお、「直接」は一の者が他の法人の株式を100%単独で保有する形、「間接」は一の者が他の法人の株式を別の法人の保有分と合わせて100%保有している形のことです。
次に「当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」とは、一の者によって「直接」または「間接」に支配されている者同士の関係のことをいいます。
2.メリットとなり得るグループ法人税制の対象取引
グループ法人税制では、完全支配関係にある企業グループを一体として考えるため、グループ内で資産を譲渡した場合などは、資産の譲渡による損益は税金の計算上考慮されません。
以下では、このようなグループ法人税制の対象取引について、メリットとなり得るものをご紹介していきます。
譲渡損益の繰延(法人税法61条の13)
100%グループ間において、固定資産・土地(土地の上物も含む)・有価証券・金銭債権および繰延資産の移転を行ったことによって生じる譲渡損益は、譲受法人においてその資産の譲渡などの自由が生じた場合、その譲渡法人において計上します。
そのため、例えば親会社が含み益のある固定資産を保有している場合、親会社は子会社に時価で固定資産を売却することができ、グループ内で固定資産を無税で有効活用できるのです。
寄付金の損金不算入(法人税法25条の2、37条2項)
100%グループ間の寄付金については、支出法人において全額損金不算入となります。
また、受領法人については全額益金不算入です。
つまり、子会社がキャッシュを潤沢に保有している場合には、別の子会社へ無税で資金移動をすることが可能です。
配当の益金不算入(法人税法第62条の5第3項)
100%グループ内の法人から配当などを受けた場合は全額益金不算入となります。
そのため、子会社が持ち株会社である親会社へ配当をすることで、ここでも無税で親会社へ資金移動させることが可能です。
現物配当の簿価譲渡
100%グループ間の、みなし配当を含む現物配当については、法人税法第62条の5第3項により、当該現物分配の現物分配法人の直前の帳簿価額によって譲渡をしたものとなります。
グループ法人税制のデメリット
次はグループ法人税制におけるデメリットについてです。
法人税法66条6項二などによると、資本金が1億円以下の中小法人に係る以下の制度(中小企業向け特例措置)は、資本金が5億円以上の法人の100%グループ内の法人には適用されません。
- 貸倒引当金の繰入れ
- 欠損金等の控除限度額
- 軽減税率
- 特定同族会社の特別税率(留保金課税)
- 貸倒引当金の法定繰入率の選択
- 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
- 欠損金の繰戻しによる還付制度
つまりグループ法人税制ではグループ内の資産を有効活用できる可能性がある反面、直接的に節税効果があるというわけではありません。
グループ法人税制は強制適用のため、思わぬところで調整計算を行わなければならない可能性もあります。
3.まずは規定を把握しましょう
グループ法人税制にはさまざまな規定があり、また完全支配関係にあるグループ会社であれば自動的に適用されます。
そのため、適用法人がメリットを得ようとする場合は、あらかじめ規定をきちんと把握した上で取引を検討する必要があるでしょう。
さらに、グループ法人税制は法人税制上の規定であるため、実際の会計処理とは別で考える必要があり、法人税の申告時にも調整が必要です。
※当社では、顧問契約を締結しているお客様以外の個別の税務相談には対応いたしかねます。何卒ご了承ください。
税理士変更をお考えの方はこちら