1.繰越欠損金とは
法人税を計算する際に所得金額が赤字となることがありますが、この赤字部分の金額のことを欠損金といいます。
しかし、法人税法では青色申告の承認を受けている場合、欠損金の繰越控除と呼ばれる制度により欠損金があっても一定期間翌事業年度に繰り越すことが可能です。
そして、この翌事業年度に繰り越す欠損金のことを繰越欠損金といいます。
この繰越欠損金、つまりマイナス部分は、一定の期間内において利益がプラスに転じた場合、そのプラス分と相殺をすることができます。
つまり現在の赤字を将来の黒字で相殺できるのです。
2.繰越欠損金を利用することで得られるメリット
赤字部分である欠損金を繰り越しても将来の利益が減るだけと思われるかもしれませんが、実は繰越欠損金を利用することは節税に繋がります。
というのも、翌年黒字が発生した場合でも、繰越欠損金によって課税所得が減ることになるため、その分法人税額を減らすことができるのです。
例えば初年度に100万円の赤字が発生し、翌年200万円の黒字が発生したとします。
繰越欠損金を利用しなかった場合、2年目の課税所得は200万円です。
実効税率を30%と仮定すると、法人税は60万円です。
一方、繰越欠損金を利用した場合、翌年の200万円の黒字から前年度の赤字100万円を差し引きますので、2年目の課税所得は100万円、法人税は30万円です。
つまり、繰越欠損金の金額が多ければ多いほど法人税額にも大きな影響があり、節税効果も高くなるのです。
繰越欠損金の計上ルール
欠損金の繰越控除は大きな節税効果が期待できる制度ですが、繰越欠損金を利用するためにはさまざまなルールがあります。
ここからは繰越欠損金の計上ルールについて解説します。
繰越欠損金を利用するため4つの条件
まず、法人が繰越欠損金を利用するためには4つの条件があります。 満たすべき条件は以下のとおりです。
- 欠損金は10年以内に開始した事業年度のものであること
- 欠損金が生じた事業年度に青色申告書による確定申告をしていること
- その後の各事業年度も続けて確定申告をしていること
- 帳簿書類等を保存していること
なお、欠損金が生じた事業年度については青色申告書による確定申告が必要ですが、その後の事業年度の確定申告については白色申告書でも問題ありません。
欠損金の繰越期間
2016年の法改正により、2018年4月1日以降に開始した事業年度で生じた欠損金については、繰越期間は10年とされています。
なお、欠損金の繰越期間については法改正によって度々変更が行われており、例えば2008年4月1日から2018年3月31日までに生じた欠損金の繰越期間は9年間です。
繰越期間については今後も法改正により変更になる可能性があるため注意が必要です。
繰越欠損金の上限金額
繰越欠損金の上限金額は企業の資本金の金額によって決められており、資本金が1億円以下の中小企業においては上限金額はありません。
一方、資本金が1億円を超える大企業については、以下の図のとおり上限金額が定められています。
欠損金が生じた事業年度 |
資本金1億円超の企業 |
資本金1億円以下の企業 |
2012年4月1日~2015年3月31日 |
80% |
100% |
2015年4月1日~2016年3月31日 |
65% |
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2016年4月1日~2017年3月31日 |
60% |
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2017年4月1日~2018年3月31日 |
55% |
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2018年4月1日~ |
50% |
上記の図からわかるとおり、大企業の繰越欠損金の上限額は年々減少傾向にあり、相対的に中小企業の方が優遇されているといえます。
3.繰越欠損金の適切な利用で企業の安定を目指そう
欠損金の繰越控除は特に中小企業にとって、節税効果の高い制度です。
赤字が続く一方では、繰越欠損金を黒字で相殺するということができませんし、赤字が増えるような経営は決して健全なものとは言えません。
適切な範囲内で繰越欠損金を利用した節税を行いたいところです。
欠損金の繰越控除を上手に活用しながら赤字を将来の黒字で相殺し、安定した経営を目指しましょう。
また、繰越欠損金に頼ってしまっている場合には、税理士などに相談されることをおすすめします。
※当社では、顧問契約を締結しているお客様以外の個別の税務相談には対応いたしかねます。何卒ご了承ください。
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