1.制定された背景
令和5年度与野党税制改正大綱に「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」という旨が記載されました。
現行の評価方法では、例えば市場価格1億円超えのマンションも相続税評価では半分以下になってしまうケースもあり、この差額を利用した「タワマン節税」というものが実態としてありました。
また、マンションの市場価格と相続税評価額との乖離は平均2.34倍と、一戸建ての乖離率(平均1.66倍)とかなりの差があり、今回はこの乖離を適正化すべく新しい評価方法が制定されることとなりました。
2.いつから、どういったマンションが対象に?
適用時期については、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されることとなります。
対象になるマンションについては
●区分所有が存する家屋で、居住の用に供する専有部分があるものをいう
とあり、ただし下記のものを除くとされています。
・地階を除く階数が2以下のもの
・一室の数が3以下であってその全てを当該区分所有者又はその親族の居住の用に供するもの
と、なかなかピンとこない言い方ですが、一般的なマンションはほぼ全て該当し、区分所有でも2世帯住宅や2階建ての低層マンションは除きますよ。
という事です。ちなみに「区分所有」ですので、1棟まるまる所有している場合も該当しません。
また、都市部や地方都市などの地域による規定がありませんので、全国のマンションが対象となります。
3.新しい評価方法
現行のマンションの評価は、簡略化して説明しますと
(土地部分) 土地1㎡の価額(路線価)×敷地全体の面積×敷地権割合
(家屋部分) 家屋の固定資産税評価額×1.0
※自用地・自用家屋としての評価
で評価しますが、新しい評価方法は、この従来の方法で評価した価額に「補正率」を乗じて計算します。
この「補正率」は下記の順番で算出します。(注:文言は簡略化して記載しております。)
(1)評価乖離率の算定
評価乖離率=(A)+(B)+(C)+(D)+3.220
A:当該一棟の区分所有建物の築年数×▲0.033
B:当該一棟建物の区分所有建物の総階数指数(※1)×0.239
※1(イ)総階数(地階は含まない)÷33
(ロ)1
(ハ)(イ)と(ロ)のいずれか低い方の数値
C:当該一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階(※2)×0.018
※2 所在階が地階のの場合は、0階とし、Cの値は0
D:当該一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度(※3)×▲1.195
※3 敷地利用権(土地)の面積÷区分所有権等に係る専有部分(家屋)の面積
(2)評価水準の算定
1÷評価乖離率(上記(1)の値)
(3)補正率の選定
1.評価水準が0.6未満の場合 ⇒ 評価乖離率×0.6
2.評価水準が0.6以上 1以下 ⇒ 1
3.評価水準が1超 ⇒ 評価乖離率
となります。この補正率については土地・家屋両方に対して乗じますので、
・(土地の評価+家屋の評価)×補正率
ということになります。
4.具体的な例で計算してみましょう
では、具体的な例に当てはめてどれぐらい評価額が上るのか確認してみましょう。
現行での相続税評価額:28,600,000円(土地と建物の合計)
・マンションの築年数:5年
・マンションの総階数:40階
・マンションの所在階:15階
・敷地面積:1,800㎡
・敷地権割合:7,000/1,800,000
・一室の専有面積:65㎡
(1)評価乖離率の算定
A:5年×▲0.033=▲0.165
B:1(※1)×0.239=0.239(小数点以下第4位切捨)
※1 40階÷33=1.212(小数点以下第4位切捨) >1 ∴1
C:15階×0.018=0.27
D:0.108(※2)×▲1.195=0.13(小数点以下第4位切上)
※2 1,800㎡×(7,000/1,800,000)÷65㎡(小数点以下第4位切上)
A+B+C+D+3.220=3.434
(2)評価水準の算定
1÷3.434=0.291…
(3)補正率の算定
0.291…<0.6 ⇒評価乖離率×0.6
3.434×0.6=2.0604
●新評価方法での評価額
28,600,000円×2.0604(倍)=58,927,440円
となります。
上記のように評価額が2倍を超えるケースもありますので、生前対策として令和5年中での贈与なども検討する価値がありそうです。
生前対策のご相談は、ぜひ資産コンサルティング事業部まで。
なお、当コラム作成時点ではパブリックコメントの段階ですので、正式な通達改正ではありませんのでご注意ください。
(文責:京都事務所 中村)
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